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春の使い魔召喚儀式によって呼び出されしは、異世界の魔王。 嗚呼、嗚呼、あらわれたるソレのなんとおぞましき事か、それは一方的な蹂躙。 強大な力の恐怖に弱者はただ絶望し、服従するのみ。 この日、ハルケギニアに魔王が降臨した。 だがその悲劇を語り継ぐものは誰一人としていない……。 『使い魔王』……悲劇の幕が開ける。 ルイズは、人生で一番幸福だった。 本人すらあきらめ掛けていた春の使い魔召喚。 その晴れの舞台で、生まれて初めて魔法が成功したのだから。 煙が晴れていく中、段々とあらわになるシルエット。 それを見ていくうちに、ルイズが魔法を召喚させたことに驚いていた群集のざわめきが別のものに変化していく そして、ルイズの小さな体が震える。ついさっきまでの幸福は、絶望へと姿を変え、そのあまりのギャップはルイズの人間らしい心を完全に奪い去っていた。 その、なんとおぞましき姿であることか―― 角。これはいい、とてもいい。 長く尖った耳。エルフを思わせるそれは恐ろしいが、それがいい。 見たことも無い、本来の役目を果たせそうに無い、黒いレンズの眼鏡。これもまあ、いいだろう。 高級そうなマント。これだってマイナス要因ではない。 そう。問題は、「使い魔」という言葉から連想する幻獣や動物では無い、亜人であるということを飛び越えて…… マントと黒い眼鏡の他には、パンツしか纏っていない貧相な体つきのおっさん(ハゲ、角付き)ということだ!! 「ミ、ミスタ・コルベール……?」 辛い現実に打ちのめされたルイズは、最早叫ぶ気力すらなくかたわらの半ハゲに声を掛ける。 「なんだね? ミス・ヴァリエール」 「もう一回……もう一回、召喚させてください」 普段のルイズからは想像も付かないほど暗く、切実な願いのこもった声。しかし、そんなことがこの伝統ある使い魔召喚儀式で許されるのだろうか? 「駄目です」 駄目だった。ルイズは荷馬車に乗せて売られていく子牛のような表情で召喚したおっさんに近づいていく。 「どうした少女よ、サインでも」 ルイズは悟りを開いた修験者の表情で呪文を唱えると、呼び出したおっさんを無理やり屈めさせてキスをした。 (さよなら、綺麗だった私。お母様、お父様、エレオノール姉さま、ちいねえさま。ルイズは汚れてしまいます) 涙が小さな雫となって地面を濡らします。それを見ていた女子学生たちもルイズの体を張った行動に感動して涙を流しています。 「美少女がオレにキスしたよっ! しかも感きわまわって泣いてるよぉ! 良かった、こっちに来て本当に良かったぐぁ! ぐぁああああああ!」 痛みに転げまわるおっさんをルイズが冷たい目で眺めながら言葉を掛ける。 「すぐ終わるわよ。待ってなさいよ。『使い魔のルーン』が刻まれているだけよ」 「つっ、使い魔だと、魔王に向かって」 ルイズは自分でも驚くほど冷静にその言葉を聞くことが出来た。 「ふ~ん、そう魔王なの。大丈夫……大丈夫、全然OKよ」 懐から取り出したのは、乗馬用のムチ。 「貴方の変態も、虚言壁も、私がきっちり調教して治してあげるわ。このご主人様の愛のムチでね!」 おっさんは、ほとんど裸です。つまりムチはとっても痛い。 (こ…この世界のガキはしつけがなっとらんな…、逃げてきたとはいえ魔王だぞ、コラ…。目にもの見せてくれるわ!!) おっさんは左手に力を溜め、無防備に使い魔心得を説いているルイズに向けて解き放つ。 「ファントムクラッシャーー!!」 外野。気の毒すぎてとっても突っ込めねえよ状態になっていた中、コルベールただ一人が危険を察知して、それが間に合わないことに焦燥していた。 あの長い耳、格好は確かに変態だがエルフ、あるいは知られざる先住魔法の使い手かもしれない、と。 そして、生徒を目の前で失う恐怖にさらされたコルベールは見た。 魔王と名乗ったおっさんの左手から―― 何も出てこなかったのを。 外野の特に男子は、腹を抑えて笑い死に寸前である。 「何ソレ!? 技!? 技の名前!?」 にこやかにルイズは、ムチを振り上げる。 「いや、ちょっと待って、出るんだよ? 本当はファントムクラッシャー出るんだよ。あっ、ほらツノ、ツノ生えてるだろ、引っ張っても取れないぞ、やってみるか?」 どこかの獄長じみたムチの一撃が命中して、おっさんのツノはどっか飛んでった。 「取れるじゃない、ねぇ?」 ルイズの顔は笑っている。顔は笑っているが目が笑ってない。所謂、殺ス目という奴だ。 「あっさり取れた…、知らんかった…あっさり取れるんだ…。イヤ、待ってよ。痛、痛いっ」 (くうぅ~ツノが装飾品だったとは…。ファントムクラッシャーも出ないし…大気の違いだろうか…? このままでは殺されるっ!! ああ、証拠…証拠…) ガタガタ、ガタゴト 「おんどりゃーーーー!! あるぞ証拠!!」 おっさんは魔界から持ってきて、すっかり存在を忘れていた手提げかばんをルイズに突きつける。 「何よ? くだらないものだったらその黒い眼鏡割るわよ」 「ダ、ダメだよ! 割るなよ、このグラサン高いんだよ!」 それを聞いたルイズは、再びムチを振り上げ―― 「ごめんなさい、調子にのってました。この中に証拠が入っていますから、もうムチで叩くのはマジで勘弁してください」 おっさんは土下座しながらかばんを開いた。 「……何? このサルっぽい生き物……」 「魔界に生息する「サルッポイ」という動物で、オレのペットだ」 「まんまじゃない。そんなのでごまかされるとでも――」 かばんに入っていた。体長1メイルほどのサルっぽい生き物が突然、殴りかかった! おっさんに。 「早く開けれや! ハゲ!!」 「喋った!」 驚くルイズを尻目にサルはおっさんに鉄拳制裁を加える。 「本当に使えねーヤツだな。このクソ魔王は!」 「ごめん」 おっさんボロボロです。 「でもコレで信じて貰えたかな? オレが魔界から来た魔王だって……」 ルイズはステキな笑みを浮かべている。 「さっさとこの子出してれば、あんたなんかと契約しないですんだのよね? てか、私が呼んだのはこの子じゃない? この子よね? 何、何であんたが使い魔になっているわけ? こうなったら死んで詫びなさいよ、契約やり直すから」 半分くらいは本気の目でおっさんに死を強要するルイズ。 おっさんは恐怖に震えて漏らしてます。 「っサ、サル助けてくれよ」 サルは、ふう、やれやれだぜ、と肩をすくめるとルイズに一言。 「姉ちゃん。オレ、おっぱいぼいんぼいんが好きなの。そのつるぺた洗濯板が奇跡的に成長したら出直してきな」 「うふ、うふふふふふふふ、うふふふふふふふ、ふふふふふ、うふふふふふふふ。ご主人様に暴言を吐くなんて……どこまでも楽しい使い魔ねっ!」 「えっ、オレじゃないよ。サ、サル~てめえ何、言ってんだ~~!」 サルはもう居なかった。 外野の生徒たちに混じってこっちを見ている。 「うそ」 本当です。 「ちょっと、助け、だ、誰か助けて~」 この後、ルイズの調教のおかげでおっさんは立派にマゾに目覚めて、それなりに幸せに暮らしたそうな。 ただ生涯、自分は魔王だと名乗るのはやめなかったらしい。 サル? サルは、キュルケのところに転がり込んでよろしくやった後、巨乳を求めて旅立っていきましたよ。 ルイズの実家でペットになったり、どこぞのハーフエルフの所でペットになったり、うまいことやってるだろう。きっと。 『使い魔王』……完。 (「黒いラブレター」(第22通)より魔王)
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前ページ手札0の使い魔 トリステイン魔法学院。 そこの中庭からはしばらく前から爆音が絶えなかった。 「宇宙の(ry」 呪文を唱え終わると再び起こる爆発。 原因は叫ぶように呪文を唱えて続けていたためか肩で息をしている少女だった。 「おいまたかよ、これで何度目だ」 「十回目からは誰も数えてないよ」 「いい加減にしろよゼロのルイズ!」 ルイズと呼ばれた少女は何も言わず息を整えると、杖を掲げもう一度呪文を唱え ようとした。 「ミス・ヴァリエール」 しかし横から頭の可哀想な(頭皮的な意味で)中年の男がそれを止めた。 「授業時間がおしてきましたので、また次の機会にでも…」 「そ、そんな!…ミスタ・コルベール、あ、あと一度だけ、一度だけお願いしま す!」 コルベールと呼ばれた男は少し考えるような顔をしてそれから「一度だけですよ 」と念をおして数歩下がった。 ルイズは深呼吸すると、厳しい目付きで呪文を唱えた。 今までよりも格段に大きい爆発が起こった。 ルイズは失敗したと思い膝をつきかける。 が、しかし、土煙の中に何かの影が見えた。 爆心地にいたのはボロボロのコートを纏って倒れている男だった。 「おい、あれ…」 「平民、だよな」 「…ハハハ!ゼロのルイズが平民を召喚したぞ!」 ルイズはしばらく呆然としていたが、ハッと我に帰ったようにコルベールに詰め 寄った。 「ミスタ・コルベール!やり直しをさせてください!」 「なりません」 「そんな!どうしてですか!」 「このサモン・サーウ゛ァントは生涯のパートナーを決める神聖な儀式です。一 度呼び出したものには責任を持たねばなりません。さあ、早くコントラクト・サ ーウ゛ァントを」 「うぅ…」 未だに腑に落ちない表情のルイズだが、意を決したのかコントラクト・サーウ゛ ァントのルーンを唱え始めた。 そしてゆっくりと唇を重ねる。 男が小さく呻き声を上げると、その左手に微かに光るルーンが刻まれた。 「ふむ…どうやら成功の様ですね。では皆さん、教室に戻りますよ」 コルベールがそう言うと生徒達は各々杖を振り空へと飛び上がった。 「ルイズ、お前は歩いてこいよ!」 「空も飛べないゼロのルイズ!」 と、ルイズを貶しながら離れていった。 「~~~!」 ルイズはその場で地団駄踏みそうになるのを堪える。「さて、目も覚まさぬ様で すし学院の医務室に運びましょう」 コルベールにそう言われて忌々しげに自分の召喚した男を見やる。 その顔には余計な手間を、と書いてあるような表情だった。 実際に運ぶのはコルベールの役目だったが。 * * * * コルベールは今日の授業は使い魔との交流にあてると言い教室から去った。 生徒達が広場へ向かっていくなかルイズは医務室へ足を進めた。 「別段外傷は見られないので恐らくは召喚のショックで気絶しているのでしょう 。何分人間が召喚されるなど他に類を見ない状況どすからな」 コルベールはこう言うと男の左手に刻まれたルーンをスケッチして医務室を出て いった。 ルイズは召喚された男の顔を見る。 顔の作りは悪くない。黄色い刺青の様なものがあるが、それを除いても整ってい る顔である。 (でも平民じゃ役に立たないじゃない) しばらくして男が目を覚ました。 ベッドから上半身を起こすとキョロキョロと辺りを見回す。 「ここは…」 男は見覚えのない場所に困惑しているようだ。 「やっと起きたのね」 側に座っていたルイズは起き上がった男に対して、立ち上がり腰に手を当てて尊 大に言った。 「…誰だ?」 「人に名前を聞くときはまず自分から名乗るものじゃないかしら」 「あ、ああ…俺は鬼柳京介」 「キリューキョースケ?変な名前ね。まあいいわ」 ルイズは仁王立ちから腕を組み、自らの名前を名乗った。 「で、ルイズ。俺は何でこんなところにいるんだ?」「…平民がメイジを呼び捨 てなんていい度胸ね」 「メイジ?何だそれは」 「はぁ?メイジも知らないの?とんだ田舎者ね」 ルイズは盛大に溜め息を吐くと長々と説明しだした。 曰くメイジが何であるか、貴族が何であるか、そして使い魔が何であるか。 話が終わる頃には既に日は沈んでいた。 「分かった?つまり私はあんたの御主人様。あんたは私の僕よ」 鬼柳はしばらく黙っていたが話が終わるとゆっくりと口を開いた。 「…つまり、俺はもう一生元の場所に帰ることが出来ずに、あんたの下で働かな くちゃならないわけか?」 淡々と言う鬼柳に少し怯むルイズ。これで鬼柳が文句の一つでも言えば食ってか かったかもしれないが、冷静に聞き返され、さらには一生帰れないなどという言 葉を聞かされて、ルイズも幾分かばつがわるくなってしまった。 「な、なにも一生なんてことはないわよ?里帰りくらいさせてあげるわ」 「…いや、どうやらそれは無理の様だ」 鬼柳は窓の外を見ながら言った。 * * * * 鬼柳は既に気付いていた。 ここが自分の知らない世界であると。 突然目の前に現れた鏡、聞き覚えのない言葉、極めつけに窓の外には赤と青に輝 く双月。 不思議と混乱はしていなかった。 シグナーとダークシグナーとの戦いという、知らない人が聞けば荒唐無稽な事に 当事者として関わっていたからかもしれない。 次に考えるのはクラッシュタウン…改めサティスファクションタウンのことであ る。 街の再建も順調に進み、復興作業の途中で突然目の前に現れた鏡に吸い込まれて 気が付いたらベッドの上にいた。 鬼柳の頭にニコとウェストの顔が思い浮かぶ。 今やあの街は昔の様な死の街ではない。しかし、心配なものは心配だ。自分を慕 ってくれる二人に何も告げずに消えるなどあり得ない。 鬼柳の心は決まっていた。もとの世界に帰ると。 しかし、鬼柳はまた、ルイズがそう簡単に帰還を許してくれそうにない性格であ ることも、先程の説明で分かってしまった。 そもそも異世界から来たなんて言っても信じてくれるかどうかすら怪しい。この ことはひた隠しにすることにした。 「ちょっと聞いてるの!?何か言いなさいよ!」 はっと我に帰り慌てて取り繕う。 「いや、知らない地名ばかりだったんでな。恐らく俺の住んでいたところとは相 当離れているんだろう」 嘘は言っていない。その離れているというのが距離とかいう次元ではないが。 「そ、そう…」 どうやってルイズに認めさせようか鬼柳は考えたが、ふと、そもそも帰る方法を 知らないことに気付いた。さっきの説明から、自分がサモン・サーヴァントとい う魔法で呼び出されたことは聞いた。 そして、「平民なんて使い魔にしても役に立ちそうもないけど」という言葉も一 応耳に入っていた。 つまり、鬼柳に不満を持っていたにも関わらずやり直さなかったと言うことだ。 鬼柳はそこまで思考を展開させる。しかし、これくらい直ぐに頭が回らないとプ レイミスをしてしまうので決闘者として当然と鬼柳は思っているが、仮に苦労が 召喚されてもここまで考えが及ばないだろう。 閑話休題。 鬼柳としては一生ルイズに仕える気は勿論ない。 しかし、自分はここでは何の特権も持たない平民である。帰るための情報を得る にも何も出来ない。 鬼柳は取り敢えずルイズの使い魔となることにした。 「と、当然じゃない!使い魔にならないなんて選択肢はないわよ!もう動けるな ら行くわよ!」 そう言ってルイズはマントを翻し、鬼柳はコートを来て医務室を出た。 前ページ手札0の使い魔
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前ページ次ページ”舵輪(ヘルム)”の使い魔 魔法学院の教室は、講義を行うメイジの教卓が一番下の段に位置し、階段の様に机が続いている。 ルイズとミュズが中に入って行くと、先に教室にやって来ていた生徒達が一斉に振り向き、そして、くすくすと笑い始める。 皆、様々な使い魔を連れていて、教室中に沢山の生き物が居た。 梟、蛇、烏、猫。ミュズの中のデータにある地球に存在する生き物が見える。 しかし、ミュズの目を引くのは、椅子の下で眠り込んでいるキュルケのサラマンダーの様な見た事も無い未知の生物だった。 アバロス星人に似た姿の、六本足のトカゲがいた。 ミュズは気になって、ルイズに尋ねた。 「あの六本足のトカゲは何ですか?」 「バジリスク」 ミュズは次々に不思議な生き物の名前を尋ねる。 ルイズはそれを次々と不機嫌な声で答えて、席の一つ腰掛けた。 ミュズはその傍らに怖ず怖ずと無言でぴたりと立った。 ルイズは使い魔達が集まっている教室の壁際に居る様に言いつける。 しかし、ミュズが怖がってマントを掴んで離れないので、渋々諦める事になった。 扉が開いて、中年の女の先生が入ってきた。紫色のローブに身を包み、帽子を被っている。ふくよかな頬が、優しい雰囲気を漂わせている。 彼女は教室を見回すと、満足そうに微笑んで言った。 「皆さん。使い魔召喚は、大成功の様ですわね。このシュヴルーズ、こうやって春の新学期に、様々な使い魔達を見るのがとても楽しみなのですよ」 ルイズは俯き、ミュズが居るのとは反対側の方に顔を逸らした。 「おやおや。変わった使い魔を召喚したのですね。ミス・ヴァリエール」 シュヴルーズがミュズを見て、何気無しにとぼけた声で言うと、教室中がどっと笑いに包まれ、太っちょの男子生徒から野次が飛ぶ。 「ゼロのルイズ!召喚できないからって、その辺の平民を連れてくるなよ!」 ルイズは立ち上がり、長いブロンドの揺らして怒鳴った。 「違うわ!きちんと召喚したもの!この子になっちゃっただけよ!」 「嘘つくな!『サモン・サーヴァント』ができなかったんだろう?」 ゲラゲラと教室中の生徒が嘲笑う。 「ミセス・シュヴルーズ!風邪っぴきのマリコルヌが私を侮辱したわ!」 握り締めた拳でルイズは机を叩いた。 「風邪っぴきだと?俺は風上のマリコルヌだ!風邪なんかひいてないぞ!」 マリコルヌも立ち上がり、ルイズを睨みつける。 「あんたのガラガラ声はまるで風邪をひいてるみたいなのよ!」 シュヴルーズは小ぶりな杖を振って、立ち上がった二人を制止させ、席に座らせる。 「ミス・ヴァリエール。ミスタ・マリコルヌ。みっともない口論はお止めなさい」 さっきまでの勢いが吹っ飛んで、ルイズはショボンとうなだれていた。 「お友達をゼロだの風邪っぴきだの呼んではいけません。分かりました?」 「ミセス・シュヴルーズ。僕の風邪っぴきは只の中傷ですが、ルイズのゼロは事実です」 マリコルヌの一言に、生徒達からくすくす笑いが漏れる。シュヴルーズは厳しい顔で教室を見回して杖を振るい、何処からともなく現れた赤土の粘土でくすくす笑いをする生徒達の口を塞ぐ。 「あなた達は、その格好で授業を受けなさい」 教室中のくすくす笑いが治まった。 授業の開始を告げ、シュヴルーズは咳払いをして、ルーンを唱え杖を振うと、教卓の上に石ころが現れた。 「テレポート?あの人のESP波が一瞬で急に強くなった様な感じがした…」 ミュズはその光景に眼を見開き、口をきゅっと締めて呟く。 「私の二つ名は『赤土』。赤土のシュヴルーズです。『土』系統の魔法を、これから一年、皆さんに講義します。」 二年生になって最初の講義と言う事も有り、おさらいをする様に系統魔法や『土』系統の魔法の特長が説明される。 そして、シュヴルーズは『土』系統の魔法の基本である『錬金』を、教授する為のお手本として、自ら石ころに向かって唱える。 石ころが光りだし、それはピカピカした黄色味を帯びた金属に変わっていた。 ミュズはその様子をじっと注視して、目の奥をチカチカと光らせた。 キュルケが身を乗り出し、「ゴールドですか?」と尋ねると、シュヴルーズは謙虚そうに「真鍮」と答えた。 その後に、ゴールドを錬金できるのは『スクウェア』で有り、自分は『トライアングル』だともったぶった様に付け足した。 ミュズがルイズの肩をつつく。 「マスター」 「何よ。授業中よ」 「『スクウェア』や『トライアングル』って何ですか?」 「系統を足せる数の事よ。それでメイジのレベルが決まるの」 「はい?」 ルイズは小さい声で顔を近づけさせる。 そしてミュズに、一つの系統に他の系統を足して呪文を強化する事や、同じ系統を足してその系統を強化する事などを、すらすらと説明した。 ミュズはその説明に納得すると、ぽつりと疑問を投げ掛けた。 「マスターは幾つ足せるの?」 その疑問に口をへの字に閉じて悲しげに眼を細め、ルイズは押し黙ってしまった。 そんな風にしゃべっていると、シュヴルーズに見咎められ、ルイズはクラスメイトの前で錬金の実技を行う様に言いつかる。 しかし、困ったようにもじもじするだけで、ルイズは立ち上がろうとしなかった。 シュヴルーズが再び呼び掛けると、キュルケが『危険』を理由にルイズの実技を取り辞めるように困った声で言い、教室の殆ど全員が頷いた。 初めてルイズを教えているシュヴルーズはその意味が分からず、励ましの声を掛けルイズに実技を行う様に促す。 キュルケは褐色の肌から血の気が引いて、ルイズに実技の辞退を懇願するが、決心した様にルイズは立ち上がってシュヴルーズに答える。 緊張した顔でルイズはつかつかと教室の前へと進むと、隣に立ったシュヴルーズはにっこりと笑い、錬金したい金属を心に思い浮かべるようにと指導をする。 こくりと頷いて、ルイズが手に持った杖を振り上げ、それと同時に前の席に座っていた生徒が椅子の下に隠れた。 ルイズは目をつむり、短くルーンを唱え、杖を振り下ろす。 その瞬間、教卓ごと石ころは爆発と化した。 爆風をモロに受け、ルイズとシュヴルーズは黒板に叩き付けられた。 驚いた使い魔達が暴れ出し、サラマンダーが火を吐くは、マンティコアが外に飛び出すは、大蛇が烏を飲み込むはの大騒ぎになった。 悲鳴や罵声が溢れる教室で、ミュズは誰も気付かない小さな声で呟いた。 「真空の揺らぎが『ゼロ』になった」 シュヴルーズはたまにピクピクと痙攣をして倒れたまま動かない。 煤で真っ黒になったルイズは、服の至る所が破れた見るも無残な格好で、むくりと立ち上がる。 大騒ぎの教室を意に介した風も無く、顔の煤をハンカチで拭きながら、淡々とした声で言った。 「ちょっと失敗みたいね」 他の生徒達から猛然と反撃を食らう。 「ちょっとじゃないだろ!ゼロのルイズ!」「いつだって成功の確率、ゼロじゃないかよ!」 ミュズは、どうしてルイズが『ゼロのルイズ』と呼ばれているのかを、ルイズが魔法を使うと如何なるかを知った。 前ページ次ページ”舵輪(ヘルム)”の使い魔
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前ページ次ページゼロのミーディアム 何度も失敗した末、ついに使い魔の召喚に成功したかと思われたルイズ。しかし現れたのは まきますか? まきませんか? と、書かれた謎の契約書。 流石に困惑を隠せないルイズだがそれは今回のサモン・サーヴァントを受け持ったコルベールもまた同じだった 「姿を見せる前に契約を求めるなんて…先生、今までにこんなことって…」 「いや、こんな前例は…なんとも面妖な…」 通常サモン・サーヴァントでは使い魔となり得る者が直接呼び出される。 姿を見せずにいきなり契約を迫るケースは未だかつて無いことだ 「あの、先生…やっぱり私、これに契約しなきゃいけないんですか…?」 ルイズは不安を隠せなかった。しかし無理もない。基本的にサモン・サーヴァントにおいて使い魔との契約に二度目は無い。 何者であろうと呼び出した者と契約を結ぶのが掟なのである。失敗する以外にやり直しは許されないのだ。 「ミス・ヴァリエール。先程説明したが春の使い魔召喚の儀式のルールはあらゆるルールの中で侵すことのできない最も神聖な物の一つ。 出てきたものが何であれ例外は認められない… …が、今回ばかりはそうも言ってはられないか…」 険しい顔を崩ししコルベールはため息をついた 「と言うことは…」 「これまでに無い事態の上に得体の知れないことが多すぎる。 儀式のやり直しも認めよう。まあ最終的な判断は君に任せるがね」 「儀式のやり直し…」 確かにこのままコントラクト・サーヴァントを行うのは危険かもしれない。 あまり考えたくないが契約後、凶悪な悪魔を呼び出した末に魂を取らる等の可能性もありえる。 やはりやり直すべきか… 「なんだ?また結局失敗かよ!」 「あんだけ派手にやっといて…さすがゼロのルイズよね!」 「はいはい、ルイズルイズ」 ルイズは周りの好き勝手な物言いに腹が立った (今回は失敗したんじゃないのに!) …そう、儀式は失敗した訳では無い 何者かは確かに自分の呼び掛けに答えた それもこんな特殊な方法で契約を求めてくるような使い魔なのだ、ただ者ではあるまい もしかしたら自分の望んだ強大な力の持持ち主なのかもしれない ――腹は決まった 「いいでしょう、結ぶわ…この契約!」 「良いのだね?一度契約したが最後、後戻りはできないのだよ?」 「ヴァリエール家の三女たる者何が来ようとも後ろは見せません!」 「…わかった、君の意見を尊重しよう」 ルイズは懐から羽ペンを取り出し周りの生徒達を見回す 「見てなさい!アンタ達ををアッと言わせてやるんだから!」 そして「まきます」をに○をつける ――契約は結ばれた 「…何も起こらないじゃないの」 そう、何も起こらなかった。 天が割れ巨大な竜が光臨することもなく 地が裂け荒ぶる巨人が現れることもなく 澄み切った空には鳥が鳴き大地は爽やかな風が草木を揺らしている 肩すかしを食らった気分だ。何かの悪い冗談だと思いたい 「…また失敗なのね」 落胆を隠せないルイズ あれだけ大見得きってこの様とは… また皆の笑い物になるのかと思った矢先―― ドサッ 何かが落ちた音 振り返ってみるとそこには一つの鞄が… ルイズはおろかルイズを見ていた周りの生徒やコルベールすらどこから現れたのか気づかなかった ルイズは突然の鞄の出現に戸惑いを隠せなかった。だが契約をした後に現れたのを見ると… 「これが…私の使い魔?」 見た目は変哲もないただの鞄のようだ 不安ではあるがルイズは鞄に手をかけた。後ろではコルベールが待機し、不測の事態に備えている (何を迷ってるのルイズ?もう後戻りは出来ないのよ!) 自分に言い聞かせそして意を決しついに鞄を開けた!! 「出てきなさい!私の使い魔!!」 ――鞄の中には一人の少女が眠っていた 「これが私の使い魔…」 その少女は流れるような銀色の髪に雪のような白い肌、 服は黒を基調とした優雅なドレスを纏い静かに横たわっていた だが一番目を惹いたのは… 「黒い…翼……!!」 。まるで天使、いや、堕ちた天使を思わせる一対の黒翼。 自分は堕天使を召喚してしまったのか!? しかし起きる様子がまるでない。 不穏に思いそっと抱き上げてみる。ルイズよりもさらに小柄な少女だったが… 「この子…息してない!心臓も止まってる!?」 「ル、ルイズが…ルイズが堕天使の死体を召喚したぞ!」 「何呼び出してんだ!」 「なんて罰当たりな!」 ルイズはおろか他の生徒までパニックになり辺りは騒然となった そんな中コルベールだけがルイズに悠然と歩み寄りルイズの抱いている少女を調べ始めた 「これは…安心するんだミス・ヴァリエール、落ち着きたまえ。 君が呼び出したのは天使の亡骸などではないよ。これを見てみるんだ」 コルベールが少女の袖を上げ腕の間接部を見せる 「球体型の間接…ってことはこれは人形!?」 「ああ、そのようだね。見たまえ、ここにネジもある」 まきますか?まきませんか?とはこのことだったのだろう。 「これが人形だなんて…?肌なんか人間のそれと全く変わらないわ」 人形の頬に手をあてルイズは呟いた 「さあ、このネジを巻くんだ。恐らくはそれで動き出すのだろう」 「はい」 後ろの首元にあるネジ穴にネジを入れ何度か巻いてみる 「…うわっ!」 直後人形は紫色の妖しい光に包まれ、ルイズは思わず手を離してしまった しかし人形は倒れること無く自らの足で大地に立つと 俯いたままぎこちなさそうに一歩一歩ゆっくりと歩き始た そして俯いた顔が上がり遂にその瞳が開かれる 紫色の瞳をした鋭い眼孔そして―― 「…64万、4690時間と16分ぶりの目覚めね…」 どこか艶のある少し低めの声で人形は呟いた 前ページ次ページゼロのミーディアム
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前ページ次ページゼロと人形遣い ゼロと人形遣い 8 トリステイン魔法学院2年生の教室。 そこでは、昨日念願の春の使い魔召喚の儀式を行なったばかりの生徒達が、授業前の時間を利用して話しに花を咲かしていた。 当然、昨日の事で盛り上がっている・・・かと思いきや、実際は別の話題で盛り上がっていた。 「おい、見たかよ。食堂の」 「当たり前だろ。それにしても」 「あの時のルイズの顔といったら」 「さすがはゼロよね~」 「あんなのが公爵家の」 「本当に笑わせてくれるよ」 そう、生徒達の話題の大半は朝の食堂での事件だった。 ルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエール 通称「ゼロのルイズ」と呼ばれる彼女は 、貴族のみが通えるトリステイン魔法学院の中でも特に身分が高い名門ヴァリエール家の三女である。 なぜ彼女がこのような悪口を言われているのか。 その理由は、彼女の二つ名「ゼロ」が示している。 ルイズは、魔法の使えない。使おうとしても、爆発が起こるだけだ。 貴族の象徴であり、メイジのステータスであるはずの魔法を使うことができないのである。 これだけでも、笑い話としては十分だが、今回はそれだけではない。 「いや~、まさか平民が使い魔とはな」 「使い魔?そんな訳ないだろ」 「そうだ。どうせ金で雇ったんだろ」 「やっぱりそうか!」 教室に笑い声が響いた。 そのまま、笑い声も収まらないうちに、今朝の事件へと話が移る。 「でも、その平民にあんな事言われてたぜ」 「あの時のルイズのセリフ聞いたかよ」 「ばかいぬ~ってか」 「ほんと、貴族として恥ずかしくないのかしら」 また、笑い声があがる。 その時、教室の扉が開く音がした。 特別大きな音ではなかったが、なぜか騒がしかった教室に響いた。 開いた扉から入ってきたのは、見知らぬ二人。 いや、先に入ってきた少女は見覚えがあるはずだ。 先程まで自分達が嘲っていた相手。ゼロのルイズその人である。 だが、今のルイズは人の中身の「闇」が滲み出ている様なオーラを纏っているため、まったくの別人に見えてしまっていた。 その「夜の闇色」を纏うルイズに声をかけられる者など居るはずもなく。 彼女は、無言のまま教室に入り、自分の席に座った。 その後を、悠々とついて行く男。 彼は席に座るルイズを見下ろした。だが、ルイズは反応することなく前を睨みつけている。 そんなルイズをしばらく眺めていたが、呆れたように軽く肩を揺らして、教室の後ろへと移動し、そのまま壁を背にして座り込んだ。 それから1分近く沈黙が続いたが、ゆっくりと教室にざわつきが戻ってくる。 だが先程までの賑やかさはなく、教師が来るまでの間この状態が続いた。 しばらくして、また扉が開き、教師のシュヴルーズが入ってきた。 紫色のローブに身を包み、帽子をかぶった中年の女性で、いかにも魔法使いといったいでたちである。 シュヴルーズは、普段と若干違う教室の雰囲気に眉をひそめたが、昨日は召喚の儀式があったので、全員浮かれているのだろうと解釈した。 「皆さん。春の使い魔召喚は、大成功のようですわね。このシュヴルーズ、こうやって春の新学期に、様々な使い魔たちを見るのがとても楽しみなのですよ」 そう言って、シュヴルーズは教室にいる使い魔を順に見ていく。 だが、教室の後ろに眼を向けたときに動きが止まる。 そこには、明らかに柄の悪い男が居た。 一瞬、不審者かと思ったが、すぐに思い出した。 「ミス・ヴァリエール、変わった使い魔を召喚したものですね」 とぼけたシュヴルーズの声に、ふたたび教室に笑いが巻き起こった。 そんな笑い声の中、ルイズはうつむいてしまった。 誰もが笑い続ける教室で、誰かの声が響いた。 「ゼロのルイズ! 召喚できないからって、その辺歩いてた平民を連れてくるなよ!」 その声に、暗い怒りが溜まっていたルイズは立ち上がり、 今朝の鬱憤を晴らすように怒鳴った。 「違うわ!きちんと召喚したもの!それなのにあいつが出て来ちゃっただけよ!」 「嘘つくな! サモン・サーヴァントができなかったんだろ?」 ルイズは声の主をにらみつけると、シュヴルーズに視線を移した。 「ミセス・シュヴルーズ! 侮辱されました! かぜっぴきのマリコルヌがわたしを侮辱しました!」 「かぜっぴきだと? 俺は風上のマリコルヌだ! 風邪なんか引いてないぞ!」 「あんたのガラガラ声は、まるで風邪でも引いてるみたいなのよ!」 マリコルヌも立ち上がり、ルイズを睨みつける。 教壇に立ったシュヴルーズは首を振って、小ぶりな杖を振った。 すると、二人の口に粘土が張りついた。 「ミス・ヴァリエール。ミスタ・マリコルヌ。みっともない口論はおやめなさい」 自分が起こした騒動なのに、他人事の様に叱ってくるシュヴルーズの言葉に、ルイズは眉を吊り上げたが、何も言わずに席についた。 「お友達をゼロだのかぜっぴきだの呼んではいけません。わかりましたか?」 粘土を剥がしたマリコンヌは懲りずに言った。 「ミセス・シュヴルーズ。僕のかぜっぴきはただの中傷ですが、ルイズのゼロは事実です」 くすくすと教室から笑いがもれる。 シュヴルーズは厳しい顔で教室を見回し、再度杖を振った。 マリコンヌと忍び笑いしていた生徒たちの口に、粘土が張り付く。 「あなたたちは、その格好で授業を受けなさい」 さすがに教室は静かになる。 シュヴルーズは満足そうに頷くと、 「それでは授業を始めますよ」 そう前置きをして、シュヴルーズは授業を始めた。 その声に、今までは興味無さそうにぼっとしていた男、先程話題にされたゼロのルイズの使い魔である阿柴花は初めて反応した。 『やっと授業が始まるのんですかい。やれやれ、無駄な話が多いこって・・・。 まあ、この先どうするにせよ、魔法のことは知っといて損は無さそうですからねぇ』 そう考えながら、シュヴルーズの説明へ耳を傾ける。 どうやら、今回は今までの復習らしい。 あまりにも都合にいい展開だが、好都合ではある。 魔法には[火][水][土][風]という四つの基本的な属性がある。 その他に、失われた系統魔法の『虚無』があるが、今は使えるものがいない。 属性を組み合わせることによって、より強力な魔法が使える。 組み合わせられる属性の数によってメイジのレベルが決まる。 そこで、シュヴルーズの説明は終わった。 説明された知識を頭の中で整理しながら思った。 『なんてぇかヒネリが無いねぇ・・・、なんかのファンタジーの小説か何かみたいな設定じゃないですか』 またシュヴルーズの声が聞こえたので、前に目を向ける 「それでは、実際にやってみてもらいましょう」 自信ありそうな者に、無さそうな者、今年から初めて受け持つ事になったクラスなので迷ってしまう。 その時、悩むようにうつむいた一人の生徒に目が止まった。 シュヴルーズは、誰に当てようかと考えながら生徒たちの顔を順々に眺めていく。 「ミス・ヴァリエール。どうかしましたか? 今は授業中ですよ」 声を掛けられたルイズは慌てて顔を上げた。 「申し訳ありません。ミス・シュヴルーズ」 「よろしい。では、錬金の実習はあなたにやってもらいましょうか」 「えっ!」 シュヴルーズの一言で生徒の視線がルイズに集まった。 そのどれもが恐怖と心配の入り混じっている。 なぜかルイズは、いつまでも立ち上がらない。 「あっ、あの・・ミス・シュヴルーズ・・・」 ルイズは困ったようにもじもじするだけだ。 そんなルイズの様子に阿柴花は、 『ありゃ、嬢ちゃんの地雷は[土]なのかねぇ?』 シュヴルーズは再度呼びかけた。 「ミス・ヴァリエール! どうしたのですか?」 「先生」 おずおずと手を上げたのはキュルケだった。 「なんですか? ミス・ツェルプトー」 「やめといた方がいいと思いますが」 「どうしてですか?」 「危険です」 キュルケは、きっぱりと言った。 その言葉に、教室のほとんど全員が頷く。 ルイズの体がぴくりと動く。 「危険? どうしてですか?」 「先生はルイズを教えるの初めてですよね?」 「ええ。ですが、彼女が努力家だということは聞いています。ミス・ヴァリエール。前に出てきてやってごらんなさい。失敗を恐れていては、何もできませんよ?」 シュヴルーズは、優しくルイズを促す。 だが、キュルケは 「ルイズ。やめて」 と、真剣な顔で言った。 しかし、ルイズは立ち上がった。 「やります」 緊張した顔で、ルイズは教室の前へと出て行く。 阿柴花はその様子を後ろから眺める。 「そう緊張しなくても大丈夫ですよ。錬金したい金属を強く心に思い浮かべるのです」 ルイズの隣でシュヴルーズは笑いかけた。 こくりと、小さく頷く。 机の上に乗った小石を睨みつけ、ルイズは呪文を唱え始める。 その様子はいかにも魔法使いらしい。 ルイズは呪文を唱え終えると、杖を振り下ろそうとした。 その瞬間、阿柴花の背筋にゾクリと冷たいものが走り、本能のままに身を伏せる。 そして、杖が振り下ろされた瞬間。 小石が爆発した。 爆風をもろに受けたルイズとシュヴルーズは黒板に叩きつけられる。 机の破片があちこちに飛んでいき、窓ガラスを割り、何人かの生徒に当たる。 爆発に驚いた使い魔たちが暴れだした。 教室の至るところから悲鳴が起こり、物の破壊音が響き渡る。 キュルケは立ち上がると、ルイズを指差した。 「だから言ったのよ! あいつにやらせるなって!」 「もう! ヴァリエールは退学にしてくれよ!」 「俺のラッキーが! ラッキーが食われたー!」 阿柴花はゆっくり身を起こして惨状を眺めた。 黒板に叩きつけられたシュヴルーズは床に倒れたまま、ぴくぴくと痙攣している。 ルイズの顔はすすで真っ黒になり、制服もぼろぼろだった。 しかし、さすがというべきだろうか。ルイズは落ち着いていた。 顔についたすすをハンカチで拭い、淡々と感想をもらした。 「ちょっと失敗みたいね」 当然、他の生徒たちが反発した。 「ちょっとじゃないだろ! ゼロのルイズ!」 「いつだって成功の確率、ほとんどゼロじゃないか!」 無性に煙草を吸いたくなったが我慢する。 「なるほど・・・、それで[ゼロ]ですか・・・」 阿紫花の呟きは喧騒の中に消されていった。 前ページ次ページゼロと人形遣い
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『右手』のガンダールヴ 「ルイズが平民を召喚したぞ!」 爆煙の中から現れたのは 少年だった。 白地に緑のラインが入ったシャツに 同じく白のデニムズボン。 年の頃は高校生くらいの デイパックを背負った少年。 疲れ果てたように 眠っていた。 彼が、『母親の顔と身体を乗っ取った怪物』と戦ったばかりだと知る者など 誰もいない。 そして 正確には『彼』ではなく、『彼ら』であることに気付く者も… 前例の無い「平民の召喚」であっても、学校のカリキュラムの一端である『召喚の儀式』を取りやめるわけにも行かず、 目覚めた少年の意思を無視する形で「コントラクト・サーヴァント」は続行された。 ルイズは呪文を唱えた。ここまではイイ。だが 契約を完成させるためには、相手に口付けをしなければならない。 出会ったばかりの少女にキスを迫られ、少年は近づくルイズの顔を押しのける。その際 右手が僅かに唇に触れた。 突然 右手の甲が輝き、そこにルーンが刻まれる。『契約』は成立した。 事情の全く判らない少年の方は当然として、ルイズも驚いていた。 (私… まだ『キス』してないのに!) 「コントラクト・サーヴァントは 一度で成功したようですね。」 ルイズと少年が密着していたため、担当の教師や他の生徒達からは キス出来た様に見えたらしい。 「ほう、これは珍しいルーンですね。ちょっと 書き写させてもらいますよ。」 珍しいことは間違いない。なにせ 伝説の使い魔『ガンダールヴ』のルーンなのだから。 この教師 コルベールは、後にルーンが何であるか突き止めた際に 首を捻ることになる。 (はて、ガンダールヴのルーンは、左手のハズでは…?) その晩 ルイズは自室で 使い魔となった少年に、実に多くの事を説明せねばならなかった。 少年は、ハルケギニアにおける常識的な知識を ほとんど持ち合わせていなかったからだ。 説明に頻出する『魔法』と言う存在、そして 窓から見えた二つの月に、少年はここが『異世界』であることを理解した。 (父さんは きっと心配してるだろうなぁ。 でも、母さんの仇は討ったし、ここなら もう あのバケモノ達に関わらなくて済むだろうし…) 「ちょっと、アンタ ちゃんと聞いてるの? そういえば、まだアンタの名前って 聞いてなかったわよね。」 「ん~、『シンイチ』でいいよ。 で、ルイズさん、だっけ?」 「シンイチ! アンタは使い魔なんだから、私の事は『ご主人様』って呼びなさいって言ったでしょ!」 「それなんだけどね~。 貴女が契約した『使い魔』って、たぶんオレじゃないよ。」 「そんなはずないわ!ちゃんとルーンだって刻まれたし!」 そう言ってシンイチの右手を掴もうとしたルイズ。 だか、『右腕』は ありえない角度でグニャリと曲がり、ルイズの手をすり抜けた。 「なっ、ナニよこれ!?」 右腕は傍らの机の上まで伸びて、先端に粘土の様な塊が出来た。 塊から、申し訳程度の短い足が生えた。 頂点から ひょろりと伸びた触手が生え、触手の先にはギョロっとした目玉が出来た。 胴体には 不釣合いに大きな唇が現れた。 その「何か」を指差して、口をパクパクさせるルイズ。 二人?の視線が合った時 ソレは言った。 「やぁ 『ご主人様』。 私が 君の使い魔、『ミギー』だ。 シンイチ共々 宜しく頼む。」 残念ながら ミギーの挨拶は、気絶したルイズには届かなかった。 END (『寄生獣』から ミギーとシンイチを召喚)
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毎日毎日、掘ることだけが俺の仕事だ。 穴を掘れば、それだけ村が広がる。村長は喜んで、俺にミミズを食わしてくれる。 ミミズのために掘るのかって? それも違うよ。 「あ」 何かが爪にあたる固い感触がして、俺は掘る手を止めた。ごそごそと周りの土をどかす。 「これは……」 出てきたのは、ぼんやりと緑色の光を放つ、小さなドリルだった……。 『モグラよドリルで天を突け!』 ギーシュに召喚されてからも、俺の仕事は毎日穴堀りだ。 穴を掘って鉱石を探す。時々だけど、宝石を見つけることもある。ギーシュは喜んで、俺にミミズを食わしてくれる。 故郷の村を出てからもやってることは変わらない。 そう――変わったのは名前ぐらいだ。 ヴェルダンデ。ギーシュの付けた俺の新しい名前だ。元の名はもう使わない。故郷の村においてきたから。 (今日は収穫なしか……) ボコ、と頭を出したところは、魔法学院の中庭だった。穴掘りから急に地上に出てきて、太陽の眩しい光に目がくらむ。 と、誰かが俺を覗き込んでいた。 「また穴掘り? よくまあ飽きないわね」 「……ルイズ?」 「む……なれなれしいわよ、あんた、使い魔でしょ?」 「君の使い魔じゃないよ」 穴から体を抜く。モールの姿のほうが掘りやすいんだけど、ギーシュはいつも人間の姿でいろって言う。 たぶん、自分が韻獣を召喚したことを見せびらかしたいんだろう。 そして……一番そのことを気にしてるのが、このルイズだった。 「ギーシュなんかの使い魔が、まさか『変化』を使える韻獣とはね……アンタ、それ何持ってんの? ちょっと貸しなさいよ、ホラ」 「あ……」 俺が首に下げていたドリルを、ひょいとルイズが取り上げる。 ルイズの背は俺よりちょっと高いぐらい。ふてくされたような顔でドリルをいじくっている。 「ふーん……大きいネジかしら? なんか光ってる……ま、どーでもいいわ、こんなの。……いいこと、韻獣で『変化』の魔法が使えるからって調子に乗らないのよ? まったく、なんでギーシュの使い魔が韻獣で、私の呼び出したのは平民なのよ……! 『アイツ』またどっか行って……!」 ふんと鼻を鳴らして、ルイズ・フランソワーズは行ってしまった。ルイズがポイと投げ捨てたドリルを、俺はそっと拾い上げた。 なんだか、ひどく落ち込む。 そのドリルは、故郷の村で掘り出して以来、ずっと俺の宝物だった。結局、俺にとっては宝物でも、人にとってはゴミみたいなものなんだろう。 「はあ……」 トボトボと歩いて……俯いていた俺は前に人がいるのに気がつかなかった。 俺の頭が、相手の腹あたりにぶつかる。俺は慌てて顔を上げた。 「上向いて歩け、ヴェルダンデ」 「あ……カミナ」 「カミナじゃねえ、アニキってよべ!」 カミナはニヤッと笑うと、鋭く尖った真っ赤なメガネを、クイと持ち上げて見せた。 「俺……兄弟いないから。それに、カミナは人間で、俺はグレートモールじゃないか」 「そーいうことじゃねえ。魂のブラザー、ソウルの兄弟ってことじゃねえか! ブスな女が何言おうと気にすんなァ。お前にコイツは似合ってるぜ!」 「ブスな女って……ルイズはカミナのご主人なのに」 そう、カミナは人間で、しかも使い魔だ。普通、使い魔になるのは動物や幻獣。グレートモールもそうだ。でも、人間が召喚されるなんて前代未聞らしい。 さっきの女がルイズ、カミナを呼び出した本人だった。 「ヴェルダンデ、ドリルはお前の魂だよ」 そう言うと、カミナはどこか懐かしそうな顔で笑って見せた。 カミナは変な人間だ。 俺は銀色の円盤をくぐってギーシュに召喚され、契約を済ませた。春の使い魔召喚の儀式だった……ってことは後から知った。 次々と幻獣が召喚される中、最後に召喚されたのがカミナだった。 中庭に響いた爆発と轟音に、俺は飛び上がった。 煙がおさまっていく、その中心地に召喚されたカミナは、まるでズタボロの死体みたいだった。 周りの生徒たちがざわつく中、震えるルイズが何を考えていたのか……今の俺にはわかる気がする。 たぶん、ルイズは迷ってたんだ。 カミナは、どうみても人間の平民だった。それも瀕死の。 カミナが死ねば召喚したことはチャラになる。 ルイズはもう一度召喚しようと思えばできたんだ。カミナを見殺しにすれば。でも―― 「……お前を……信じろ……シモン。……お前の信じる……お前を……」 たぶん……そこにいない誰かに向かって、カミナは呟いたんだと思う。 その言葉を聞いたとき、ルイズの中で何かが吹っ切れたみたいだった。 「――我が名はルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエール! 五つの力を司るペンタゴン。この者に祝福を与え我の使い魔となせっ!」 舌を噛むような長い呪文を一言で言い切ると、ぎゅっとカミナを抱きしめて、ためらいもなくルイズはキスをした。 しんと静まり返る生徒たちを、ルイズはきっと振り返る。 「誰か、水系統は手を貸して! 後でお礼はするわ、早く彼を治療してあげて!」 そう――ルイズは叫んだんだ。 「――なのに、ブスって言い方はないよ、カミナ。命を助けてもらったんじゃないか」 「まぁな。お前が……あんまりシモンのやつに似てるから、ルイズにごちゃごちゃ言われてるの見ると、ついな」 俺とカミナは学院の壁にもたれてよく話をする。 笑うカミナの顔は、どこか寂しそうな……それでも俺に似てるって言う『シモン』の話を、カミナは俺に繰り返し語ってくれた。 『シモン』。 どんなときでも諦めない。いつだってまっすぐで、天まで突き抜けるようなドリルを魂に持った、元の世界でのカミナの相棒――。 話を聞くたびに、俺はちょっと落ち込む。カミナは、俺と『シモン』が似てるって言う。俺の持ってるドリルと同じドリルを持っていたとも。 でも、きっと似てるのは外見とドリルだけなんだ……って思う。俺には、穴を掘るしか能がないから。 「あーら、ダーリン。また『シモン』の話? 嫉妬しちゃうわ」 後ろから声をかけられて、俺とカミナが振り返る。 そこに立っていた燃えてるみたいに赤い髪のナイスバディの女は、にこりと微笑み、するりとカミナの隣に座った。 「キュルケか」 「そ。ねえ、カミナ。お昼でもご一緒しない? ヴェルダンデとばっかりお話してないで」 「カミナ……俺行くよ。お邪魔そうだし――ぐえ!」 立ち上がりかけた俺を、カミナの腕が引っつかんだ。 「おうおうおうおう、何いってやがる。ヴェルダンデは俺の弟分、新グレン団の団員だ! それをおいて女と飯を食いにいくなんざ、このカミナ様のやることじゃねえよ」 「あらま。やれやれ……相変わらず嘘が下手ねぇ、カミナ」 な、なにが嘘だ! と上ずった声で目をそらすカミナに、ずい、とキュルケが身を乗り出す。 「元の世界の女だかなんだか知らないけど、律儀なもんねぇ。ま、あたしは諦めないわよダーリン。恋は障害が多いほど燃え上がるんだもの!」 じゃあねー、と手を振るキュルケ。カミナはふう、と溜息をつく。 「キュルケがきらいなの? 胸の大きい女は穴につっかえるから嫌だとか?」 「いーや、俺様の好みにはストライクなんだが……ヨーコに殺されちまうからなぁ」 はあ、とうなだれるカミナに、思わず俺は噴出した。カミナもつられて笑い出し、俺たちは二人で腹を抱えて笑った。 こんな風に、俺の毎日は続く。 相変わらずキュルケはカミナの尻を追いかけているし、ルイズはと言えば、俺ともよく話すようになった。 「普段、カミナとどんな話をしてるのか聞きたくて」だって。最初の高慢な態度は徐々に消えて、よく笑うようになった。 俺もキュルケもルイズも――いつのまにかカミナのことが大好きになってたんだ。 「あれ?」 爪が固い何かにぶつかる。俺は周りの土をどけていく。 出てきたものに、驚いて俺は目を丸くした。 「これは……」 『それ』の閉じた目が、ぼんやりと緑の光を放っている。 ペンダントに下げたドリルが、ウォン、ウォンと音を立てて光った。まるで、自分の仲間に再会して喜んでるみたいに。 俺は慌てて穴を掘って地上に向かった。真っ先に知らせたい人がいるから。 悪いけどギーシュは二番目だ。いい主人だけどね。 俺は地上に飛び出した。 「アニキ――! 見せたいものがあるんだ!」 「おう、どうしたヴェルダンデ。一体なんだ? 見せたいものって」 「顔だよ!――すっごいでっかい顔!」 「なにぃっ! ガンメンか!?」 俺はヴェルダンデ――穴掘りヴェルダンデだ。 毎日毎日、掘ることだけが俺の仕事だった。その巨大な『顔』を掘り当てるまでは。 ――穴ばっかり掘って、退屈じゃなかったかって? それは違うよ。 「行こうアニキ――!」 「おうよ、ヴェルダンデ!」 ――そう。宝物を掘り当てることだってあるんだ。 おわり (『天元突破グレンラガン』よりカミナ)
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医務室にギーシュを放り込んで医務室を出た所で三人の人物に遭遇した。 一人は確か…コルベール…で良かったか?真ん中の老人は穏やかな表情の裏に隠された気迫からして 学院長だろう。となるともう一人の女性は秘書か?そう考えていると、 「ほっほっほ、面白い決闘であったぞ。ルイズ君、『ウル』君」 「やってる本人としては面白くも無いのだが」学院長らしき人物にそう応える。 「あああすいません学院長。こらっ『ウル』、礼儀正しくしなさいっ!」 「ほっほっほっ良い良い。それより先程の決闘で使った変身術、アレは何かのう。」 「『降魔化身術』と言いまして己の体を依り代とし幻獣・魔獣の類の魂を降ろす術です。」 「ほほう、誰にでも出来る、と言うわけではなさそうじゃのう」 「ご明察です学院長。『降魔化身術』は血筋に左右される所がありますので。しかし」 右の頬を左手で掻く。左手のルーンを見せ付けるように。 「このままで良いと思っているのですか、学院長。時間は無限に有る訳ではないのですよ。」 「そうじゃのう、ほっほっほっ。」 「行こう主・ルイズよ。ここは空気が悪い。」「え、ちょちょっと待ちなさいよー『ウル』。し、失礼しまーす。」 振り返り様学院長の方を軽く睨み付けて『狸め』そう思った。 ルイズの部屋に戻ったウルは、部屋中のカーテンを閉じ何がしかの魔法をかけてルイズの前に跪き 「我が主・ルイズには話しておかねばならない事が有る。」そう言った。 「な、何よ、いきなり改まって、いったい何だって言うのよ」 「実は我が最初に名乗った名前『ウルムナフ・ヴォルテ・ヒューガ』とは、我のかつての主の名前だ。」 「じゃ、じゃあ本当の名前って?」 「それは教えるわけにはいかない。我が三日前まで居た世界では名前を利用した呪殺術が存在する。 我がその世界から来た最初の存在であるという確証が無いまま、我の真の名前を教える訳にはいかないのだ。」 「じゃあ何でカーテンを閉めたの?」 「先ほどの決闘で見せた『蠢く岩塊』と表現できる姿、あれの名前は『ガウディオン』だ。 そして今から見せる姿こそ我の真の姿だ。」そう言うと『ウル』の姿が光に包まれ新たな形をとった。 「!!!」ルイズの目の前に現れた異形、それは黒い鎧に赤く彩られた紋様、 そして一対の翼を持つ『悪魔』と表現する他無いものだった。 「我は魔界の王にして『破壊神』の二つ名を持つ存在だ。」 ルイズは言葉も出せない程に固まっている。『魔界の王』は続けて言う。 「我が主・ルイズよ、喜ぶがいい。我の身内には他にも十八体の幻獣・魔獣の類が存在する。 即ち一度の召喚儀式で二十体の異形の召喚に成功したのだ。」 「…………『魔王』だけでもおなか一杯だってのに。何で今になってそういう事を打ち明けたの?」 「違う姿に『変身』して、その度に驚かれては『召喚者』としての立場に悪い影響を与えかねないからだ。 それにこの『技』は余り見せびらかすものでもないからな。」そして再び光に包まれ『ウル』の姿に戻った。 TOP あの作品のキャラがルイズに召喚されました @ ウィキ
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盛大な爆発音と土煙が舞い上がる…… (なんか手ごたえある!!) この日、数十回目の失敗の後。召喚に成功した事を確信したルイズは、拳を握り締めちょっと感動するのだった。 「おい、なんか居ないか?」 「まさかゼロのルイズが成功したのかよ!」 ざわめく生徒達を他所にルイズは期待に胸を膨らませながら(精神的な意味で)土煙を凝視するのだった。 しかしながら、土煙が晴れてくるのと裏腹に表情は徐々に曇るのだった。その理由は、「そこに立っていた人物が奇妙」だったからであった。 まず目に付いたのは、ルイズの背丈ほどはあろうかという大きなお面。 緑を基調としたカラフルでなおかつエキゾチックな人の顔を模したようなお面だった。そのお面をつけている人物の服装はと言えば…… 腰巻のようなものをしているが殆ど裸、しかもその体には何かの模様を刻んでいるのか塗っているのか…… どこからどうみても平民と言うより本で読んだ未開の地に住むと言われる原住民の様ないでたちであった。 (なんで私だけドラゴンやサラマンダーとかバグベアーとか……せめてフクロウとか猫とかじゃないのよ!! 平民ならまだしもどうみても原住民だし…… 正直言葉通じるのかしら?) ルイズは色々な事を考えると頭を抱えてその場にしゃがみ込んでしまった。 ここで普段の生徒達ならルイズをはやし立てるのだが、あまりの出来事にちょっと引いていた。 (なんか… やばくね?) (変な踊りしてるし…) (それより、すごく気になるんだが…… あいつの周りにいる白いの…… まさか…) コルベールは背中にかいている汗が止まらなかった。なぜならば、自分の経験と知識から照らし合わせれば間違いなくあの白いのは『精霊』であった。 精霊を従えているとなれば先住魔法の使い手の可能性が極めて高かったからであった。 コルベールは小声で生徒達に学院に戻るように指示すると静かにルイズに近づくのだった。 「ミス・ヴァリエール、静かにこちらに来なさい」 小声で呼びかけるコルベールの下へ静かにルイズが向かうと覚悟を決めた表情をした先生からこう言われるのであった。 「ミス・ヴァリエール、私が奴に話しかけたらすぐに学園へ走りなさい」 コルベールの表情と台詞の意味に気がついたルイズは首を振り涙目になりながら訴えるのだった。 「コルベール先生、でもあいつは私が召喚したんです。原住民みたいだけどそれでもやっと呼び出せたんです」 せっかく召喚できた使い魔を殺されると考えたルイズ必死に止めようとするのだった。しかし、コルベールが声に気をつけながらルイズを説き伏せるのだった。 「ミス・ヴァリエール、なるだけなら私もあなたのサモン・サーヴァントが成功したことを祝いたかったのですが… 奴は危険すぎます」 なおも食い下がろうとするルイズに対し、コルベールは奴の周りの白い奴を指差し精霊である事をルイズに告げるのだった。 魔法はからっきしであるが為、他の生徒の誰よりも知識に関して秀でていたルイズはそれを聞いた瞬間に真っ青になり震えながらその場に座り込んでしまうのだった。 (しまった、ヴァリエールが近くに居てはうかつに攻撃することも出来ん) コルベールは自分の配慮の浅さを呪うのだった。刺し違えても倒すつもりであったが、ルイズがちかくに居ては戦いの巻き添えにしてしまう可能性が大きかった。 ここで、コルベールはさらなるミスを犯していたのだった。それはルイズの行動を見て我が身を呪ってしまった事であった。 そのわずかな時間に奴が接近することを許してしまったのだった。コルベールが気付いた時にはすでに自分とルイズの間に奴は立っていた。 焦るコルベールを他所に奴はルイズの前で屈むと、不思議そうに首をかしげながらルイズをお面越しに覗き込んでいるのだった。 そんな奴に対して、ルイズは震えながらも貴族としてのプライドだけで気丈に問いかけるのだった。 「ああ、あんた誰よ!!」 奴はルイズの問いかけを聞くとスッと立ち上がり両手を挙げてこう答えるのだった。 「マッドマン!!」 マッドマンと名乗った奴は「ウホ!ウホ!」と叫びながらルイズの前で左右にぴょこぴょこと跳ねながら踊っているのだった。 しかし、突然叫んだかと思うと前のめりに倒れるのだった。 「危なかった…」 倒れたマッドマンの後ろから汗だくになった額をハンカチで拭いているコルベールが姿を現すのだった。 コルベールが踊っているマッドマンにそっと近づき後頭部へ当身をしたのだった。 「助かった…」 突然の出来事に身体を強張らせていたルイズだったがコルベールの機転のおかげだとわかると気が抜けてそのまま後ろに倒れそうになるのだった。 そんなルイズをコルベールは支えてコントラクト・サーヴァントを早く済ませるように促すのだった。 コルベールは契約を済ませれば使い魔として従順になり危険はなくなるだろうと判断したのだった。 コルベールの促しを聞いたルイズは表情をパッと明るくさせ急いでマッドマンの傍へと行くのだった。たしかに奇妙な人物…… でも初めて魔法が成功した事、精霊を操る実力者、この人物が私の使い魔になると考えるとさっきまでの恐怖心は消え去り期待に胸を膨らませるのだった(物理的に無理だが)。 ルイズはマッドマンのお面を取ると意外と美形な男だったことに赤面しながらも無事に契約を済ませるのだった。
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前ページ次ページゼロの最初の人 「オールド・オスマン。王軍から、現時点での今年度卒業見込生徒の総数と、ランク、系統ごとの人数を書類にまとめ、今月のティワズの週ラーグの曜日までに報告するようにとのことです」 「ご苦労。明後日までには早馬を手配して王宮に届けさせるようにしよう。4、5日中には届くであろうから、安心してくれ」 魔法でペンをいくつも扱い、浮かんだ書類をどんどんと処理していきながらオスマンは答える。 目で書類を追わず、視線はしっかりとロングビルに合わせていた。 かつてロングビルが秘書の職に就いたころ。初めてこの異常な光景を目の当たりに彼女は、どうすればこのようなことが出来るか聞いたことがある。 彼いわく、レビューションと遠見の魔法の応用であり、練習すれば誰にでも出来る事。らしい。 それを聞いたロングビルは、使えれば何処かで役に立つかもしれないと、こっそり練習した。 しかしながら「複数のペンと複数の書類を浮かし、複数の視界を展開、なおかつそこから得る情報を同時に処理しながら、複数のペンを別々に動かし正確に文字を書く」など、常人にできるはずはない。 ロングビルは浮かんだペンを複数同時に動かすことはなんとかできたが、正確に、しかも同時に文字を書くなんてことは出来ず、すぐに諦めた。 そんな昔のことを思い出し、この人はやはりすごい人だ。と、微笑みながらロングビルがさらに言った。 「心配なぞしておりませんよ。もしどうしてもしなければいけないのならば、その相手は貴方ではなく早馬でしょうね」 「ほっほ。仕事は正確でしかも速い。おまけに舌まで達者とは、ワシはいい秘書を雇ったもんじゃのう。」 そんな談笑をしている間に、オスマンが動かすペンの動きが止まり、書類が束にまとめられ、ポンと机に置かれた。 「さて……もう今日やらねばならんことは終わってしまったの。 むぅ、まだこんな時間か…………そうじゃのう、ちとばかり早いが仕事は終わりじゃ。自室へ戻っても構わんぞ」 「それでは、お疲れ様でした。お先に失礼させていただきます」 「ああ、ご苦労じゃった」 オスマンはそう言って、ロングビルを見送った後、窓の方向に向き直り物憂げに空を見つめる。 ここはトリステイン魔法学校学院長室。そこには数々の並行世界で不埒な行為 ―俗にいうセクハラ― を行っていた変態爺とは全く違う「大賢者オールド・オスマン」の姿があった。 彼が成し遂げた偉業は数知れない。そして偉業は人々に伝わって伝説となる。 人が、国が、彼に救うたび伝説は増えていく。 さらに伝説は人に伝わると尾ひれを付け泳ぎだす。そうしてその総数は両手両足ではまったく足りないほどになった。 曰く、四大系統を全て修めた。 曰く、300年以上の時を生きている。 曰く、彼の出陣は、終戦の号砲である。 彼の伝説の中には虚実のものもある。しかしそれこそ「彼ならこれでも出来る」という周りの評価の高さを表しているだろう。 彼は、自身のもつその強大な力で祖国トリステインの危機を幾度も救った。 当然王宮の貴族らは彼に褒美を取らせようと考えたが、彼の素性に関しては謎な部分が多かったため、連絡がつかず、その功績に対し見合った報酬を与えることができずにいた。 しかし、彼の齢が200を超えしばらく経ったころ、ある日、彼自ら王宮に姿を現し当時の国王フィリップ3世にこう言った。 「これから、この杖は未来を担う若人を導くために振るいたい。このわしをトリステイン魔法学院の学院長にしてくだされ」 突然のことだったが、メリットはあれどデメリットの見つからないその提案に、フィリップ3世は一も二もなく首肯する。 そうして、彼はトリステイン魔法学校の学院長に就任することが決定し、その知らせはすぐ学院にも届いた。 ハルケギニア一の実力を持つとも言われるメイジが、学院長に就任することに対して、反対するような教員、生徒がいるはずもなく、学院の貴族たちは一様にオスマンを歓迎した。 学院の平民たちは、最初こそ萎縮したものの、平民だからといって差別せず、気さくに話しかけてくるオスマンに対し好感を抱いた。そして彼が学院長になることを歓迎した。 そして、一般的な学院長職の寿命としては長すぎるほどの間、オスマンは学院長であり続け、今現在も学院長職を努めている。 人望も厚く、学院に関する細々とした事務処理にも手を抜かず、ミスを犯すこともない。 そんなオスマンをわざわざ学院長のポストから下ろす道理もなかったため、オスマンは何十代もの生徒が卒業するのを今も見届けている。 しかしながら、元来オスマンの性格は、お調子者で助平。そんな彼が、どうしてこのような偉大な人物となったのか。 トマトが何故赤くなったかを、気にするものが稀有なように。その理由を気にするもの ―少なくとも今のハルケギニアには― はおらず。 必然的に、その理由を知る者はいない。 所変わって同時刻。ヴェストリの広場、ここでは春の使い魔召喚の儀式が行われていた。 ほとんどの生徒が使い魔を召喚し終え、召喚した使い魔との交流を深めていた中。未だに召喚が成功していない生徒が一人。 ルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエール。トリステイン王国有数の大貴族であるヴァリエール家の第三女である。 少女は集中する。自分の魔力を、そして自分の意識を、杖に集め呪文を唱える。 「我が名はルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエール……五つの力を司るペンタゴンよ。我の運命に従いし、使い魔を召還せよ!」 魔力のこめられた詠唱は、爆発を生み出し地面に大きなクレーターを作った。副産物は他生徒からの中傷の言葉。 「おいおい!ゼロのルイズはサモン・サーヴァントでも爆発させるのかよ!」 「万一、いや億一に成功してもあの爆発じゃ使い魔死んでんじゃねーか?」 「ハハハ!!違いないな!!」 無慈悲な言葉の矢がルイズに浴びせかけられる。ルイズは奥歯を噛み締め、悔しさを飲み込んだ。 絶対に、絶対に絶対に見返してやる。神聖で強力で、そして美しい私だけの使い魔を召喚してみせる。私をバカにしたやつらを見返してやる。 ルイズが呪文を唱えようと今一度杖を振り上げた。そのとき、監督教師のコルベールがそれを制止した。 「ミス・ヴァリエール、待ってください!」 ルイズが苛立ちを隠そうともせず答える。 「なんですか?!まだ授業の時間はあるでしょう?!」 「違います!そこを見てください!」 言うと同時にコルベールは指を指す。その先は先ほどルイズが"サモン・サーヴァント"で作ったクレーターがちょうどあるあたり。そこは爆発で巻き上げられた土煙に覆われていたが、かすかに中の様子が垣間見れた。そこには確かに黒い影があった。 「成功です!あなたの!ミス・ヴァリエールの使い魔が召喚されたのです!」 目の前の少女の苦労を少なからず知る教師が興奮しながら言う。 しかしながら、先ほどまで負の方向へ大きく傾いていた少女の精神に対して、正の方向へ強く心を揺るその情報はあまりに強烈過ぎたらしく、 念願の使い魔召喚、魔法の成功だというのにただただ、口をパクパクとするのみで少女の思考は停止した。 只、ルイズほどの衝撃を受けないにしろ他の少年少女たちにも目の前の状況は大きなショックであったらしく、誰も口を開けない。そんな中、青い風龍を召喚した青髪の少女が小さく何かを呟いた。 「ウィンド・ブレイク」その風の呪文で、クレーター近辺を覆っていた土煙が吹き飛ぶ。 ルイズはその少女に小さく、でもありがとうの思いをしっかりこめて一礼。そしてすぐに影 ―煙は晴れていたが外皮が黒い生物なのか正確な形が判断できない― に向かって駆ける。 駆けながらルイズは考える。 よく姿がわからないけど、人間と同程度には大きいわ!きっと幻獣よね、しかもあんなに大きいんだもの!あの青髪の子が召喚した風龍には劣るだろうけど、ツェルプストーのサラマンダー同等程度には強力に違いないわ! これでみんなを見返せる!これで姉さまに、お父さまに、お母さまに褒めてもらえる! きっと、ルイズはこのとき興奮で盲目になっていたのだろう。そうでなければ駆け寄る途中に自身の召喚したモノの正体に気付いたはずだ。 そしてルイズはソレにあと5メートルというとき、やっと気付いた。興奮していた精神が急激に冷やされる。あまりのことに再び声を失った。 何秒か、何分か、時間が過ぎた時やっとのことでルイズは一声もらす。 「…………人間?」 ルイズは近づいて観察する。年は17、18才といった所だろう。造形が整っており知性を感じさせる顔つきだ。 しかし、その青年は、サモン・サーヴァントで召喚された、ということを差し引いたとしても、明らかに異質に感じられた。 その原因の全ては青年の着ていた衣服である。貴族のものとは明らかに違う作りのローブのような妙ちくりんな黒いものを羽織り、その中に橙色の如何とも形容しがたい服を着ていた。靴は大きな黒いもので、髪の色もまた―このあたりでは珍しく―黒だった。 両手には中の服と同じ橙の手袋がはめられて、その左手には……"杖のようなもの"が握られていた。 また男は、ルイズ達生徒やコルベールの居る方向に対し背を向けた状態で、膝を軽く抱えたようにして寝ていた。 つまり、黒い面しか彼女らには見えておらず、見慣れぬ服装のこともあったため、黒い大きな幻獣と勘違いしたわけだ。 そんなとき男がゴロンと寝がえりをうった。顔や首、袖口に見える手首。そんな"人"の部分が生徒の方向を向く。 数人の生徒が目の前の事実を理解した。ヒソヒソとした話し声。その声は次第に大きなものになり、ルイズに向けられる罵言へと姿を変える。 「なんだあれ!ヒトじゃねぇか!」 「ゼロのルイズの使い魔は人間!こりゃ傑作だ!!」 それに混じってスースー、グーグーと規則正しい呼吸音が聞こえる。 それがルイズの精神を逆なでした。 「こ、こここ、この!!起きなさいよ!!!!」 杖を空に向け怒りを乗せた呪文を唱える。上空に巨大な爆発が生まれた。その衝撃で周りの生徒の使い魔たちの数匹が暴れだす。 誰かの蛇が、誰かカラスを飲み込む寸前で、空気の槌に吹き飛ばされる。 巨大モグラがやたらに穴を掘り、その中に使い魔と人間が何人か落ちてしまう。 寝ているところを起こされてしまい不機嫌なサラマンダーがめちゃくちゃに炎を吐く。 そんな阿鼻叫喚の騒ぎをなんとか収めた生徒たちが、ルイズをにらんで怒鳴るように声をあげた。 しかしルイズは振り向かない。肩で息をしながら使い魔をじっと見ていた。 なぜなら、そこでようやく召喚した彼が目を覚まし、起きあがったからだ。 目を覚ました彼は「くぁあ」と大きな欠伸をしながら伸びたあと、目をこすりながらゆっくりとあたりを見渡す。 その動きをコルベールは警戒しながら見つめる。使い魔はコントラスト・サーヴァントで契約するまでは、主に危害を加える恐れがある。召喚されたのがヒトであったとしてもそれは変わらない。 ルイズはというと、そんな緩慢な動きに内心イライラしていたが、何も言うことがなかった。 いや、正確には先ほどの怒り感情に身を任せ荒々しく唱えた呪文のせいで、いまだに息が荒れていた為、言えなかった。という方が正しいだろう。 その青年にそんなルイズの心象を知る由もなく、しばらく彼はそうしていたが、やがてルイズに目線を合わせ溜息をつき、こう言った。 「そこのおぬし。何故わしはここにおるのかのぅ?」 前ページ次ページゼロの最初の人